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脚本を売りたい

 クロオビを立ち上げた動機は「脚本を売りたい」ということに尽きます。

では脚本というのがどれくらいで売れるものなのか。有名なエピソードだと脚本家シェーン・ブラックの書いた『ロング・キス・グッドナイト』(1996)が400万ドルで落札されたことがあります。これは1980〜90年代にハリウッドでspec script(オリジナル脚本)を巡る映画スタジオの入札競争の影響を受けた最高落札額です。

ちなみにspec scriptの定義をWikipediaでは「最終的にはプロデューサーまたは制作会社/スタジオによって購入されることを期待して、通常脚本家が執筆する、依頼されていない自発的な脚本」としています。

400万ドルが異常な額だとしても、アメリカの映画界がspec script(オリジナル脚本)を重要視する文化は続いています。最近、注目されている監督S・クレイグ・ザラーが今までに書いた脚本は21本が制作会社に買われている。それらはまだ映像化されていません。「ブラック・リスト」という未だ映像化されていない脚本をリスト化して映画ファンが楽しめるサイトも存在します。

 憧れのハリウッドから遠く離れた、東の島国の状況はどうでしょうか?400万ドルというのが夢だとしても、脚本家という職業は脚本を売ってお金にしているんじゃないのか?と言われれば、その通りなのですが、ちょっとニュアンスが違います。 大体の場合、脚本家は誰か(プロデューサー等)の依頼があって執筆します。原作のないオリジナル作品の場合でも依頼者と相談しながら書いていきます。自分で企画を持ち込む場合も脚本を書く前段階で売り込んだ先の相手の意見を取り入れることになるのが常です。「相談」「意見を取り入れる」というのは柔らかい表現にしたるだけで、自分の意に沿わない脚本が出来上がることも多々あるわけです。つまり日本ではspec scriptの定義である「依頼されていない自発的な脚本」を書いて売るという文化がない。あったとしてもそれは稀で、どちらかというと脚本家は脚本という商品を売るといより、脚本を書く能力で雇ってもらっている感じがします(それはそれで必要なのですが)

 日本の一脚本家としては「依頼されていない自発的な脚本」が売れたらいいなと単純に憧れます。個人的な欲望だけでなく、そうなった方が面白い作品が増えるだろうと想像します。しかし現状、小説や漫画の原作権をおさえることはあっても、spec script(オリジナル脚本を買ってくれる人がいるか分かりません。とはいえ商品を店先に並べてみなければ、何も始まらない。ひとまず「依頼されていない自発的な脚本」を6本、取り揃えました。この脚本は誰でも読めます。読んで興味を持ってくれた人が映像化権を買ってくれる…というのが理想ですが、まだ先の展開は全く読めません。しかし展開が読めないというは脚本においては褒め言葉でもあるので、これからの流れを期待して応援して頂けたら幸いです。

クロオビ

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